2009年1月 4日 (日)

奴雁の哲学

久しぶりにまとまった時間が出来たので本を数冊読みました。お勧めは「奴雁の哲学」です。

前川春雄「奴雁」の哲学―世界危機に克った日銀総裁

買ったきっかけ:
前川レポートと言うのはよく聞いていたが、前川総裁の人となりについての書籍を読むのは初めてで書店で目に付き早速購入しました。

感想:
「群れを成す雁、野にありて、餌を啄ばむ時、そのうちに必ず一羽は首を挙げて四方の様子を窺い、不意の難に番をするものあり。これを奴雁という。」

中央銀行の役目とはまさしく奴雁であり如何なるときにも常に四方に注意を払いながら運営されるべきである、という意味であるが、現在の経済状況を鑑みた折、中央銀行だけではなく、すべての市場参加者に当てはまるのではないかと思いました。

前川春雄「奴雁」の哲学―世界危機に克った日銀総裁

著者:浪川 攻

前川春雄「奴雁」の哲学―世界危機に克った日銀総裁

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2008年10月13日 (月)

ノーベル経済学賞はポール・クルーグマン教授

今年のノーベル経済学賞はプリンストン大学教授のポール・クルーグマン氏に決まりましたね。学生時代から彼の本を読んで勉強していたのでいつもより親近感が沸きます。「流動性の罠」という言葉が懐かしい。

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ヒュン・ソン・シン教授 @ プリンストン大学

2番目のCommentaryはhttp://faculty.chicagogsb.edu/raghuram.rajan/research/finrisk.pdfへのコメントです。

ロンドンのミレニアム・ブリッジの例(一定の環境下での人々の行動は同じようになり、そのことが悪い環境を更に助長する)を出しての説明は面白いです。

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最近日本ではプリンストン大学のヒュン・ソン・シン教授がよく紹介されています。以下のコメント&論文は読んでみようと思っています。

Do Derivatives Disclosures Impede Sound Risk Management
http://papers.ssrn.com/sol3/papers.cfm?abstract_id=1161278#

Commentary: Has Financial Development Made the World. Riskier?
http://www.kc.frb.org/publicat/Sympos/2005/PDF/Shin2005.pdf

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気になる2つのミスマッチ

最近の金融危機を受け多くの方が解説を加えられています。個人的にはエクイティ・ホルダーのダメージは致し方ないと思いますが、その影響がデット・ホルダーまで及ぶのは避けるべきだったのではないかと思います。詳細はウォールストリート日記さんが上手くまとめられているので、そちらを参考にして頂ければと思います。

ところで最近気になっているのが2つのミスマッチ。1つはファンド・オブ・ヘッジファンズとその投資先ヘッジファンドの間に生じている解約条件のミスマッチ。もう1つは、CDSの損益計上ミスマッチです。

通常ファンド・オブ・ヘッジファンズの解約条件は多少の幅はあれ、1年間のロックアップ、四半期解約、60日~90日前の事前通知です。また投資先ヘッジファンドの解約条件は1年間のロックアップ、月次~四半期解約、30日~90日前の事前通知です。ファンド・オブ・ヘッジファンズはファンドにもよりますが20~60程度のヘッジファンドに投資しています(運用会社や戦略コンセプトにより大きく異なります)。直近5年間でヘッジファンド業界へ多くの資金が流入したため、運用会社によっては自分達の設定するファンド・オブ・ヘッジファンズの解約条件と投資先ヘッジファンドの解約条件が合わないものにまで投資しているケースが見受けられます。

どういうことかというと、ファンド・オブ・ファンズの解約が増えると、運用会社は解約代金を用意するために投資先ファンドを解約しにいかなくてはなりません。しかし、投資先ファンドの現金回収と自分達の設定するファンド・オブ・ファンズの資金化スケジュールが解約条件の観点からマッチしなくなっているケースがあるのです。

ここ5年でヘッジファンド業界は急速に成長したため、ずっと資金流入の状態でした。そのため、多少の解約があったとしても投資家への支払いに困ったことはありませんでした。しかし、この度は多くの投資家が解約に走っているため、12月末の解約ではこの解約条件のミスマッチが浮き彫りになると思います。そうならないために今後いくつかのヘッジファンドは換金売りに走らざるを得ず、そのことが更なるパフォーマンスの悪化へと繋がりそうです。今までよく耐えていたヘッジファンドの中にも苦しくなってくるところが出てくると思います。まさに悪循環です。

もう1つのCDSの損益計上のミスマッチですが、これはAIG等CDSの売り手が犯した大きな間違いです。というかそういった計上を認めていた各国会計制度の間違いでしょうか。CDSの売り手は売った段階でリスクプレミアム(保険料)を買い手からもらいます。しかし、CDSの売り手は、リスクを引き受けているので同期間に貸倒引当金を積む必要があったのですが、実際には破綻して損失が出たあと始めてバランスシートにその損失を計上していました。

これにより、サブプライム問題が出てくるまではCDS市場は堅調に推移し、また取引も急拡大していたため、CDS取引の売り手は、その取引をすればするほどリスクプレミアム分見掛け上の収益が出ていたことになります。利益を計上する期間と損失を計上する期間のミスマッチが起こっていたのです。これについては収益計上のミスマッチをなくすべく当局が共同でデリバティブ取引に関する統一基準を作るべきだと思います。

ヘッジファンドのパフォーマンスは年内は厳しいと思います。業界に身を置くものとしては早く収束して欲しいのですが・・・。

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2008年9月22日 (月)

今月のヘッジファンド

日曜日の日経ヴェリタスも数面を割いてCDSの特集を組んでいましたが、この度のイベントでCDSという言葉がすっかり市民権を得たような気がします。もともとリスクヘッジというpassiveな目的のために作られたCDSがactiveに取引され、皆が知らないうちに細部にまでリスクが広がっていたというのは皮肉なものです。

さて、今月のヘッジファンドですが過去最悪のパフォーマンスではないでしょうか。直近2日間で株式市場が反発しているため、ロング&ショート戦略を中心に若干戻しているかもしれませんが、合併スプレッドは拡大し、CBのマーケットは薄くあまり取引が成立していないようです。HFRX指数を見ると今月18日までで既に4.9%のマイナスです。ある一部のヘッジファンドを除いて、リーマンやAIGへのエクスポージャーそのものが大きくパフォーマンスに影響を及ぼしているところは少ないのではないでしょうか。むしろ、上記の通り、この度の混乱により合併スプレッドが拡大したり、CB市場の出来高が急激に減ったりとしていることの方がインパクトが大きいと思います。CB Arb戦略は統計的手法を用いて売買するため、多くのヘッジファンドのポジション・ベクトルが同じになります。そのため、我慢比べが暫く続きそうです。2004年みたいにならなければ良いのですが・・・。

唯一プラスの成績を残しているのはマクロ・CTA戦略ではないでしょうか。株式ショート、商品ショート、ドルショートがプラス寄与しているようですが、市場が乱高下しているのでこれも月末が来るまで分かりません。いずれにしても今月もヘッジファンドにとって苦しい状況が続きそうです。

また、今後の注目点としては中小のヘッジファンドですね。この度の混乱でプライム・ブローカーの数が一気に減ってしまいました。GS、モルスタといった大手が手数料を上げれば中小のヘッジファンドにとっては深刻な問題となります。淘汰が進むか注目したいです。しかしながら、淘汰が進み過当競争がなくなれば、アービトラージ戦略の参加者にとっては収益機会が増えるのかもしれません。

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2008年8月11日 (月)

ニューヨークの差押率

Realty Trac.comからニューヨーク州の差押率についてレポートが出ていました。住宅価格下落の影響自体は全米で軽い方だが、日本の投資家の注目も高いと思いちょこっと触れたいと思います。

全米州別、都市圏別の差押率の詳細説明についてはアメリカ・メキシコ不動産投資で有名なGenさんのブログに譲ります。やはり現地の人、タイムリーに良い記事が出てきます。

参考Website: 
http://www.realtytrac.com/ContentManagement/pressrelease.aspx?ChannelID=9&ItemID=5031&accnt=64847

記事のポイント:
- 2008年第2四半期、全米州別で差押率を見るとニューヨーク州は全体で30番目。
- また同期間で全米平均を見ると、171件に1件が差押となっているが、ニューヨーク州は493件に1件の割合となっている。
- ニューヨーク州では2008年第2四半期に16,025件の差押申請があった。
- これは2008年第1四半期と比較して11%増加しており、また前年同期比で見ると62%増加している。
- 全米平均では、2008年第1四半期と比較して第2四半期は14%増加、前年同期比では121%の増加となっている。
- ニューヨーク州は8四半期連続で差押率が上昇している。
- 差押率の高い地域はニューヨーク市とロングアイランド地区で、10つの郡のうちこの2つで約77%を占めている。
- クイーンズ地区とブルックリン地区で約29%、ロングアイランド地区で21%を占めている。
- 約70%の差押申請が現在係争中(差押のファーストステップ)である。
- 係争申請が多いのは、クイーンズ地区、ブロンクス地区、ブルックリン地区、差フォー地区、ナッソー地区、ウェストチェスター地区、スタテンアイランド地区となっている。

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2008年8月 3日 (日)

米国不動産市況

本当に久しぶりの更新です。書けることが少なくてすみません。

Httplareosolutionscomblogwpconten_2729日に5月のS&P・ケース・シラー住宅価格指数が発表された。予想通り、主要10都市圏、及び20都市圏の住宅価格動向を表す指数は大幅に下落し、前年比でそれぞれ、16.9%15.8%のマイナスとなった。S&Pのレポートを見ると、特徴は主に3つあるようだ。

(写真出所:httplareosolutions.comblogwp-contentuploads200805foreclosure.jpg)

1.    マイアミ、タンパ、フェニックス、ラスベガス、サンディエゴ、ロサンゼルスといったサンベルト地帯の下落が大きい。

2.    ボストン、ニューヨークといった北東部の下落が比較的小さい。

3.    デトロイト、クリーブランドが地域経済が足かせとなり大きく下落している。

一方、NCREIF不動産指数を見ると2008年第2四半期(4月~6月)は+0.56%となっている。なんでこんなに違うの?ということになろうが、やはりNCREIFには遅行性がある。物件評価がついてきていないのだ。どういうことかというと、ファンドで運用されているコア型不動産もNCREIFの中には含まれているが、現在ビッドとオファーは離れているが、あまり売買がないので、評価値の中値はあまり下がっていないのだ。もし投売りが頻繁に出れば、ビッドをたたきにいくことになるので、指数全体も下がるであろう。

NAREITの方は既に大幅に下がっており、PBR1倍を割る水準まで来たものもある。流動性があるために投売りにあったのだが、あまりに加速がつきすぎているため、年後半~093月にかけてはもしかして大幅に戻してくるかもしれない。一方、私募不動産は評価が遅れているために、今後も下落するであろう。一部の投資家は上場REITから私募不動産投資に変更しているようだが、今後、上場REITが戻したときに、私募REITが戻らないという可能性も否めない。暫くはリサーチ重視でよいのではないかと思う。

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2008年4月13日 (日)

Key WordはLLC

ヘッジファンドが痛んでいる。特に年明けからの第1四半期のパフォーマンスは過去最低となっている。戦略別で見ると、ある1つのキーワードが浮かび上がってくる。それは「L.L.C」である。L.L.CとはLiquidity(流動性)、Leverage(レバレッジ)、Concentration(集中)を指し、流動性が低く(Liquidity)、レバレッジが高く(Leverage)、戦略特化或いは地域特化しているもの(Concentration)程、そのマイナス幅は大きいようだ。特に、債券裁定取引戦略、クレジット裁定取引戦略、及び地域・戦略特化型(特にアジア特化型)戦略のマイナス幅が大きい。一方、こうした難しい環境下、各ヘッジファンドを見るとキャッシュ比率を高めているファンドが増えている。

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2008年3月 2日 (日)

市場はやっぱり非効率

最近思うのはやっぱり市場は非効率だな~ということです。人がやっているので当たり前といえば当たり前ですが、改めて市場の非効率性を実感しています。

ゲーム機大手の株価は計量モデルで分析すると絶対に売りです。にもかかわらず期待でどんどん買われていますね。クウォンツではこの価格はありえないでしょう。またCMBSもそうです。Markitを見るとCMBX IndexのトリプルA格のSpreadは211.86bpsです。そもそもサブプライムと商業用不動産はまったく別のものです。

まず、①サブプライムの約80%が変動利付きであるのとは対照的に、商業用不動産の多くが固定利付きであること。次に②商業用不動産は供給多寡になっていないこと。最後に③信用補完水準がサブプライムとは格段に違うことです。

特に3番目はサブプライムとは全く異なります。ABXが下がるのは分かりますが、CMBXは1997年に過去最大の損失を計上した個別CMBSにおける損失のときも、その損失比率はディールに対して8%強でした。それと比較して現在の損失比率の予想が多くて6%、トリプルA格の信用補完がメザニンでは20%、最も信用力が高いもので30%です。現金化できるものから現金化しているのでしょうが、市場が効率的ならばこれは売られすぎのような気がします。

そうそう、それともう1つ。昨年HedgeFund IngelligenceのCredit部門とNew Fund of the Year部門とでAwardを獲得したPeloton ABS Fundが強制清算になりましたね。彼らも高格付けのCMBSをロング、質の低いABSをショートしていたそうですが、直近のCMBS下落と取引相手のHaircutの削減によりキャッシュ・ショートとなってしまったようです。彼らとしても納得がいかないでしょうね。

ではなぜこんなことになるのでしょうか。株は個人投資家も多いからある程度は期待先行で動くところがあるのでしょうが、CMBSなんてのはプロの参加者が多いのではないでしょうか。それが皆VaR等でリスク管理をしているため、一度ポートフォリオのストップ・ロスに引っかかると現金化できるものから現金化しているのでしょうか。分かる方がいらっしゃれば教えて下さいね。

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2008年2月22日 (金)

モノライン保険会社が保証する金融商品へのエクスポージャー

本日また金融機関さんにサブプライム関連のエクスポージャーを26日までに提出するようにとの連絡が金融庁から出たようです。9月頃からサブプライム関連エクスポージャーの報告が始まり、第2段階としてサブプライム+CDOのエクスポージャーの提出、第3段階として、1月からサブプライム+CDO+SIV&ABCPの保有比率の提出、そして今日サブプライム+CDO+SIV&ABCP+モノライン保険会社の保証する金融商品へのエクスポージャーの報告が通知されました。以前書いた第4ステージに来たという感じです。

が、いつも急すぎます。単体のシングルヘッジファンドならいざ知らず、ファンド・オブ・ファンズにとってはこの締切(26日)はきついです。以前も書きましたが、提出するのは構わないのですが、急に連絡するのではなく、計画性を持ってやってもらいたいものです。お陰で毎月20日過ぎると憂鬱です。20日ごろって暇になるのでしょうか。

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